補聴器で会話を聞き取るには・・・?

こんにちは、メガネの金剛補聴器担当 大橋です。

前回は聞こえの程度を表すオージオグラムについて書いていきましたが、

今回は聞こえの程度を少しだけ深く掘り下げてみたいと思います。

 

前回、最後に明瞭度というワードを書きました。

聴力レベルは「どれだけ音が聞こえるか」を表しているのに対し、

明瞭度は「どれだけ音声が聞き取れるか、理解出来るか」を表しています。

 

残念ながら補聴器は誰がつけても効果があるものではありません。

明瞭度を知ることで効果が出やすい耳なのか、そうでないのか知ることが出来ます。

実際に補聴器をつける際には聴力レベルよりも明瞭度を重要視します。

 

例えば「右耳の方が聞こえづらいから右耳に補聴器をつけたい」とします。

これは聴力レベルで判断していることになります。

もし右耳の明瞭度が悪い場合ですと、聞き取り能力が低いために

補聴器をつけたとしてもはっきり聞こえない可能性が高いです。

 

一般的に補聴器には音を大きくする能力はありますが、

耳本来の持っている聞き取り能力を改善させる能力はありません。

ただ、私も実際にお客様の対応をさせて頂いていて補聴器の効果を見ていると

教本通りではないこともしばしば目にしているので、あくまで一般的にはとご理解下さい。

 

明瞭度を知る為には語音明瞭度測定を行います。

語音弁別能測定とも言いますので同じものと思ってください。

気導聴力測定と同じように防音室にてヘッドホンを使用して測定を行います。

「ア」とか「キ」とか「シ」などの単音節20語よりなるリストを使って、

どれだけ正確に聞き取れるかを測定します。(67S表の場合)

これを複数の音量で調べて、どれくらいの音が聞こえた時に

どれくらい聞き取れるかを調べることになります。

 

特に感音性難聴の場合は「音は聞こえるけれども、話がわからない」というケースもあり、

補聴器がどれだけ効果を出せそうか、ということを想像するのに明瞭度は大事になります。

音が聞こえにくいことと、音声が理解出来ないことはまったくの別物なので

それぞれを知ることで補聴器との付き合い方も変わっていくことになります。

 

 

次にこちらはスピーチオージオグラムという語音明瞭度測定の時に使う

横軸の音の提示レベルと縦軸の明瞭度の関係を表した図です。

気導聴力測定のときと同じで赤い○が右耳のデータ、

青い×が左耳のデータを表しています。

各印を実線で結んでいるのは前述の単音節リストで測定していることを表しています。

 

表の見方ですが、横軸の提示レベルというのはどれだけの大きさの音で測定したか、です。

縦軸の明瞭度はその結果、何%の正答率であったか、を表しています。

 

この図の場合、右耳の測定結果は

50dBの提示音で、正答率0%

60dBの提示音で、正答率40%

70dBの提示音で、正答率70%

80dBの提示音で、正答率90%

90dBの提示音で、正答率90%

となっています。

 

左耳の測定結果は

50dBの提示音で、正答率45%

60dBの提示音で、正答率65%

70dBの提示音で、正答率80%

80dBの提示音で、正答率100%

90dBの提示音で、正答率90%

ということになります。

 

適当に作った表なのでちょっと違和感ありますが、気にせずスルーしていきます。

ここでまず、最高の語音明瞭度を得られたところを語音弁別能(最高明瞭度)と言います。

右耳の場合は語音弁別能は80dBで90%、

左耳は80dBで100%ということになります。

どちらの耳でも80dBの音量で聞いたときに一番聞き取りがよかったということになります。

 

右耳の場合は50dBの音を聞いたときには明瞭度0%なので、

まったく聞き取ることが出来なかったのがわかります。

対して左耳は50dBの音を聞いたときは45%聞き取れているので

左耳の方が聴力レベルは軽いのだろうと想像出来ます。

※実際には語音明瞭度測定の前に聴力レベルの測定をしているのでそんな想像する必要はありませんが…

 

左耳は90dBの音を聞いたときは90%と最高明瞭度より下がってしまっています。

90dBとなるとすごくうるさいと感じる音量なので

うるさ過ぎて聞き取りが落ちてしまったと考えられます。

 

右耳は80dBでも90dBでも90%なので聞き取りは落ちていないようです。

ただ右耳は音を大きくしていっても100%の結果が出ていないことがわかります。

つまり、この明瞭度の人はどんなに音を大きくしても右耳では100%聞き取れない

ということを表しています。

 

一般的に会話でのコミュニケーションを取るためには明瞭度が60%以上あるのが望ましいです。

語音明瞭度理解度別状況というものがあります。

語音明瞭度の値でどの程度会話が理解できるか、という目安です。

○100%以下、80%以上

補聴器の効果が十分見込まれる。

静かな環境であれば、聴覚のみで容易に内容を理解可能

○80%未満、60%以上

家庭の日常会話は、聴覚のみで理解可能。
普通の会話はほとんど理解可能であるが不慣れな話題では正確な理解に注意の集中が必要

○60%未満、40%以上

日常会話で内容を正確に理解できないことがしばしばある。

重要な内容は、確認することやメモの併用が必要

○40%未満、20%以上

日常会話においても読話や筆談の併用が必要

○20%未満、0%以上

聴覚はコミュニケーションの補助手段として有用。

聴覚のみの会話理解は不可能

となっています。

 

最高明瞭度が良い場合は、補聴器をつけて音をちょうどいい音量まで大きくすることが出来れば

聞き取りもよくなりコミュニケーションがしやすくなります。

最高明瞭度が低い場合は、補聴器をつけて音を大きくするだけでは

聞き取りの改善は難しいということです。

ただ、そういった場合は聴力レベルも悪いことが多いので

そもそも聞こえる音が少なくなっています。

 

音が聞こえないということは外出時はもちろん、聞こえないことによる危険性があります。

例えば近付いてくる車や自転車に気付けない、アラームが鳴っているのに聞こえない等。

補聴器をつけることによって聞こえていなかった音に気付けるようになる、

例え明瞭度が悪くてもそういった部分で補聴器の有効性が出てくると言えます。

 

補聴器は「つけたら言葉がはっきり聞こえる魔法の道具」ではなく、

その人が持つ「最高の語音明瞭度を引き出す為の医療器具」ということを理解してください。

 

補聴器をつけて効果があるのか、出にくいのか。

補聴器をつけることで何が改善出来て、何が改善しにくいのか。

聴力レベルと明瞭度がわかることで補聴器をつける「目的」「目標」がわかりやすくなります。

 

補聴器をつけるだけで何でもかんでも聞こえるようになると

残念ながら勘違いをしてしまっている方は少なからずいらっしゃいます。

お客様の聞こえの程度から補聴器をオススメ出来ない場合もあります。

どのようにすれば最も聞こえやすくなる環境を作れるか、

我々補聴器販売店は適切に聞こえを補う方法をお伝えしていきます。